ユー・ガット・メール(1998年アメリカ)
You've Got Mail
これは今一つ楽しめなかったなぁ。
せっかくの『めぐり逢えたら』の名コンビ、トム・ハンクスとメグ・ライアンの5年ぶりの共演でしたが、
どうにも胡散クサい内容の映画で、ラブコメとしてもノリ切れない。メグ・ライアンは大人気だった頃ですけどね。
当時、定着しつつあったEメール文化をテーマにして、見ず知らずの男女が“メル友”として、
Eメールで雑談に興じる中で、お互いに興味を持つようになったものの、なかなか“オフ会”には踏み切れない。
あくまでネットの中での憧れのパートナーという位置づけで、思いを馳せながらも実はお互いに
ビジネス上のライバル関係にあるという現実に気付かずにいて、男性側がそれに気付いて戸惑いますが、
次第にヒロインとの距離を縮めていこうとする姿を描くのですが、なかなか映画がノリ切れない中途半端さなんですね。
監督は『めぐり逢えたら』の女流監督ノーラ・エフロンで経験豊富なディレクターだったのですが、
さすがに本作は元々のストーリー展開自体に無理があったような気がします。ネットがつなぐ縁ってあるし、
それが恋愛につながる可能性もあるとは思う。コミュニケーション・ツールを超えた存在になっているのは確かです。
現代であれば、こういった形を更に進めてマッチング・アプリというものがあるので、恋愛のセオリーの一つなのかも。
そして何より、この映画は終盤のまとめ方が致命的なほどに上手くなくって、僕はダメだったなぁ。
だって嫌ですよ、このトム・ハンクス演じるジョーという男のやり方は姑息に見えてしまって。あんなことをやって、
ヒロインがジョーのことを許すなんて、にわかに信じ難く、映画としても説得力が無く見えて仕方がないのですよね。
結局、ロマンチック・コメディなんで尚更のこと、映画の最後のまとめ方って凄く大事なんですよ。
ここで説得力を失ってしまうと、映画全体が崩れてしまう感じで勿体ない。この辺はノーラ・エフロンの経験からすると、
もう少し上手く構成できる力量があるだろうと思えただけに、ここまで納得性に欠ける内容になったのは残念ですね。
まぁ、譲って男が心を許したメル友相手が実はビジネスではライバル関係にあって、
事ある毎に衝突していた女性だったと気付いていたという設定は良い。だけど、その後の仕向け方がいやらしい(笑)。
現実にこんなことされて、世の女性がジョーの行動を許すとは思えず、この恋愛が成就することに納得性が無い。
これはラブコメとしては致命的と言ってもいい。何故にノーラ・エフロンがこんな違和感いっぱいのままで
映画を終わらせてしまったのかが謎で、さすがに「これはないわ」と思わせられた時点で、僕はダメだったなぁ。
本作劇場公開当時も既にチャットやメル友など、ネット社会がつなぐ人々の輪はありましたし、
この頃からネット・リテラシーのようなものが問題視されつつあったと記憶してますが、当時から“オフ会”みたいな
集まりもあったはずです。そういう意味では本作で描かれたことって、結構なパイオニアだったのかもしれません。
現実世界ではお互いにいがみ合いながらも、素性の分からないネット上では心を通わせるというのは面白い。
こういうことは現代では十分に起こり得ることですけど、90年代後半ではかなり目新しい話しだったのかも。
それを恋愛劇のフォーマットに置き換えたわけですから、余計に魅力あったのでしょうけど、ラストの展開が勿体ない。
僕は『めぐり逢えたら』にもそこまで思い入れはないのですが、これあったら『めぐり逢えたら』の方が良かったかなぁ。
正直言って、ジョーが経営している安売りの本屋って、ビジネスモデルとしてはよく分からなかった(笑)。
確かに日本にも、大型の本屋ってありますけど、書籍ってそこまで値段が変わらないので品揃えの違いかと思ってた。
アメリカではこういう業態も流行っているのかもしれませんが、本屋の中にカフェがあったり、
今となっては日本でも当たり前にある光景ですけど、確かに90年代後半の本屋って、日本はこうではなかったです。
そういう意味では、ジョーが経営する会社の本屋って、価格よりも店のスタイルがウケているという設定なのかな?
でも、メグ・ライアン演じるヒロインが経営するような街の本屋って感じで、
小じんまりとした店って、大型店舗とバッティングするわけではないので、同じ路線で闘わないなど、
小さな店なりの経営戦略はあると思うのですがね。まぁ、今となってはセオリーですが、資本が違い過ぎるような
大型店舗やチェーン店と同じ経営手法をとって、同じ土俵で闘っては勝てるわけがない・・・となってしまいますからね。
とまぁ・・・そんなことは映画の本編にはあまり影響を及ぼさないところではあるのですが、
ヒロインが経営する店の様子を見ていたら、ジョーの店とは明らかにターゲットの客層が違いますよね・・・(苦笑)。
正直言って、本作はトム・ハンクスとメグ・ライアンの再共演という時点で、ほぼ成功が約束されたようなものでした。
こういう映画を観ると、やっぱり映画製作に於いてキャスティングの影響力って、もの凄くデカいなぁと実感します。
この内容では、当時のトム・ハンクスとメグ・ライアンの共演という話題性が無ければ、ここまでヒットしなかったと思う。
どうやら本作は1940年のエルンスト・ルビッチの監督作『桃色の店』を大胆にアレンジしたらしいのですが、
あまりリメークという感じではないですね。現代版の焼き直しなのでしょうが、ほとんどオリジナル・ストーリーです。
まぁ、こういう言い方をすると申し訳ないけど...エルンスト・ルビッチなら、こんなラストにはしなかったでしょう。
ノーラ・エフロンと言ったら、メグ・ライアンとの仕事で有名ですが、
彼女が最初に評価されたのは89年の『恋人たちの予感』で、メグ・ライアンの出世作ともなりました。
『恋人たちの予感』も含めてノーラ・エフロンはメグ・ライアンを3回ヒロインとして起用していたことから、
ノーラ・エフロンはどこかメグ・ライアンをイメージし続けていたのかもしれません。ノーラ・エフロンは残念ながら、
2012年に他界されてしまったので本作がメグ・ライアンとの最後の仕事になってしまったのが、なんとも惜しい・・・。
それから、ヒロインの恋人を演じたグレッグ・キニアがそこそこ“オイシい役”で出演しているのに物足りない。
彼がテレビ出演した際に、インタビュアーが完全に彼に惚れ込んでしまったような表情をするのは面白かったけど、
もっと存在感を前に出して、芝居ができる役者さんなだけに彼自身にあまり見せ場が無かったのは、あまりに勿体ない。
自分の記憶の中で・・・としか言いようがありませんが、
スターバックス・コーヒーがここまで映画の中でフォーカスされたことは、おそらく本作が初めてではないかと思います。
そんなトレンドの先取りみたいなところがありながらも、今となってはパソコンの画面は懐かしい雰囲気。
そもそもインターネット接続のために利用していた、ダイヤルアップ接続なんてスゲー懐かしいですね。あの音とか(笑)。
徐々にブロードバンド接続が安価になっていき、家庭用でも主流になっていったために、通信速度など含めて、
ネット環境が飛躍的に向上していきましたが、90年代末期から00年代初期はまだダイヤルアップ接続が主流でした。
既にマイクロソフト社がリリースしていたWindows95の世界的な大ブレイクがキッカケとなって、
それまでは研究者やグラフィックデザイナーが扱うものというイメージが強かったパソコンが家庭でも普及しており、
更にインターネットを利用する人も格段に増えていた時代ですから、既にメールは文通に変わるものだったのかも。
どことなく、僕の世代からすると懐かしいPC環境を観ることができる映画でもありますね。
しかし、本作製作当時には予見されていなかった、携帯電話がスマホ主流になり、
ほぼほぼPCと同じ機能を持ち、ネット通信が出来るようになり、キャッシュレス決済のツールやカメラとして使われ、
デジタル書籍も当たり前になって、書籍がデジタル化されていく波は、今後さらに加速していくかもしれません。
本作から20年経ったら、そんな社会がやって来ることを予想していた人はどれくらいいただろうか?
当時はもっと革新的なことが発明され、社会で一般化していくと予想していた人もいたかもしれませんが、
ポイントは見えない“線”で人と人をつなぐ、ということだったのだろう。今はそこにAIの存在が見え隠れするけど、
見えない“線”だからこそ、弊害も生じ易い。本作は良いところを中心に描いていますが、リスクも当然あります。
本作で描かれたようなネット上での人格と、現実世界での人格を同一視しない方がいいことに加えて、
ルールメイキング(法整備)も遅れているのが現実です。ネット上で知り合って、恋人になることもあるわけですから。
そういう意味でも本作は御伽噺のようなものです。だからこそ、僕にはどうしても終盤のジョーの行動は気になります。
ヒロインの立場からすると、自分が誘導されていたように思えて、逆に不愉快に思わないのだろうか?と心配になる。
もともとヒロインとジョーは商売上で対立関係だったわけで、そこから仲良くなりかけていた中でのことですからね。
それをサラッとハッピーエンドとしてまとめてしまう作り手の強引さに、僕はどうしても賛同できないのです。
繰り返しになりますが...ラブコメに於いて、このラストこそが最も大事なところなわけですから・・・。
(上映時間119分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 ノーラ・エフロン
製作 ノーラ・エフロン
ローレン・シュラー・ドナー
脚本 ノーラ・エフロン
デリア・エフロン
撮影 ジョン・リンドレー
音楽 ジョージ・フェントン
出演 トム・ハンクス
メグ・ライアン
グレッグ・キニア
パーカー・ポージー
ジーン・ステイプルトン
スティーブ・ザーン
ダブニー・コールマン