ユー・ガット・メール(1998年アメリカ)

You've Got Mail

正直、胡散臭い映画だ(笑)。

いやいや、この映画が好きな人には申し訳ない言い方ではありますが、
個人的には恋愛映画としても、ちっとも魅力的な内容ではなく、セオリーをキチンと踏んでいないのも凄く気になる。
本作の監督のノーラ・エフロンは、そこまでいい加減な映画を撮る人ではなかったのですが、本作は今一つ。

いろんな見方ができる作品ではありますが、当時、“Windows95”のブームが過ぎ去り、
インターネットを介して、人々がつながるということが一般化し、オフィスワークなどでもメールが利用されることが
そう珍しくはない時代だったのですが、当時としては旬なメール(≒チャット)を介しての恋愛を描いています。

そもそもチャットで自分が高校生のときに流行っていた記憶があるし、
本作もその頃に製作された作品なので、時代のトレンドを映した作品という感じがします。

今になって思えば、LINEやその他SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の“はしり”が
チャットだったと言っても過言ではなく、リアルタイムで会話がネット上で展開できるなんて、
当時は僕自身も「なんて画期的なツールなんだろぅ!」と驚かされっぱなしだったのは事実です。

だからこそ、メディアの新しい形態が生まれると、色々な諸問題が発生するわけで、
本作で描かれたように実生活での恋愛に発展した事例も、当時、そこそこ成就していたはずだ。
しかし、時には残忍な事件の舞台となってしまうこともあり、コミュニケーション手段の発達は高確率で、
何らかの“副作用”を生むということが、いつの時代にも共通する大きなテーマなのかもしれません。

ネット社会になればなるほど、犯罪を含む新たな問題が山積状態になりますが、
本作で描かれたチャットで出会った、見ず知らずの相手とメールでやり取りして、
チョットした恋心を抱き始めるなんてことは、現代ではそこら辺に頻発して、ありふれた時代なのかもしれません。

93年の大ヒット作『めぐり逢えたら』でカップルを演じたトム・ハンクスとメグ・ライアンの
3度目の共演が実現した企画なだけあって、当時も話題になっていたはずですが、
本作ではすっかり息の合ったコンビを見せ、正に「安心のブランド」という感じでした。

メグ・ライアンもまだハリウッドでロマコメの女王として一定のブランド力を誇っていた時期で、
確かに本作のメグ・ライアンは、特に映画がクライマックスに近づくにつれて若々しさを光らせているように見える。

ただ・・・ただですね、映画全体としては今一つの出来と言わざるをえない。
劇場公開当時、そこそこヒットしていたように記憶してますが、やはりその多くは話題性でしょう。
そもそも恋愛映画としてのセオリーをしっかり踏んだ内容とは言い難く、2人が惹かれ合うことに納得性がない。
そして、この手の映画のとても大事なところだと思うのですが、2人の恋心が成就することに大きな障害がない。
これも本作の物足りなさの理由の一つですね。定番と言われようが、やはり障害がないと面白くありません。

男女にあらゆる理由で障害があるからこそ、ラストで結ばれる喜びを観客は享受できるのです。
でも、本作にはそれがほぼ無いと言っていいぐらいで、どこか行き当たりばったりな印象を受けてしまう。
せっかくのトム・ハンクスとメグ・ライアンの共演だったにも関わらず、どこか勿体ない企画になったと思います。

どうやら映画は1940年のエルンスト・ルビッチの『桃色の店』をE−mailを介して出会う男女の物語に
置き換えたリメーク作品らしいのですが、ほぼオリジナルの映画と言ってもいいくらいの内容だと思う。

本作製作当時あたりから、ネット上での交流を発展させて実際に会う“OFF会”というものが
日本でも生まれ始めていて、ネットがキッカケとなって交流が広がっていくということが一般化されていきました。
あれから早20年近く経過し、結婚したカップルの出会いの場の上位として、インターネットが挙げられほど
ネット社会が急速な発展を遂げ、同時に諸問題が明るみになり、法整備の必要性も喚起されるようになりました。

本作ではそこまで社会性のある切り口から描かれてはいませんが、
本作の段階では匿名性のあるネット空間での出会いなんて、どこかアヤしさ漂う世界だったからこそ、
逆に本作のようなロマンスのメルヘンとして扱われていたように思いますが、今となっては現実味を帯びています。

そう考えると、刻一刻と時代が進化している“鼓動”を感じますねぇ。
それをトム・ハンクスとメグ・ライアンのコンビで描くなんて、本作はある意味で贅沢な企画と言えます。

それにしても、あまり誉め言葉にはなってないけど、メグ・ライアンが“ラブコメの女王”として君臨していた、
後期の作品なだけあって、まだ彼女を観ていても“華”を感じられるから、また不思議な感覚になる。
当時は日本でも彼女はまだまだ大人気だったし、やはり本作を観ていも勢いを感じさせる存在感ですね。
スクリーンにフレームインするだけで、恋愛映画に“華”を添えることができるなんて、やっぱり凄い女優さんです。

ノーラ・エフロンとの名コンビでも知られ、『恋人たちの予感』など数多くのヒット作を
作り出してきましたが、残念ながらノーラ・エフロンが2012年に他界してしまったがために、
本作がメグ・ライアンとの最後のコンビ作となってしまいました。そう思うと、チョット寂しいですね。
(まぁ・・・00年にメグ・ライアンが出演した『電話で抱きしめて』でもノーラ・エフロンは脚本を執筆してますが・・・)

この内容ならば、全体的にもっとスリムに仕上げて欲しい。
欲を言えば、映画の終盤はもっとコンパクトにできたはずだ。そういう意味では、編集も今一つ上手くない。

主演2人の恋愛に説得力を持たせられなかった原因の一つに、この編集の影響はあるような気がします。
映画全体の傾向として冗長になってしまい、主題とは関係のないところで余計に時間をかけてしまっている。
これはシナリオの問題もあるのかもしれないけど、この上映時間ならば、もっと削れたはずです。

最近はこの手のラブ・ロマンスがお得意なディレクターも少ないせいか、
本作のようなタイプの映画も少なくなった気がします。これは往年のハリウッドから、
お得意なカテゴリーとしての系譜ですので、個人的にはしっかりと継承していって欲しいと思っています。

そういう意味では、本作の出来は僕は好かないけど・・・
こういう映画が作られるということ自体、恋愛映画の需要が今よりもあった時代ということなのでしょう。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ノーラ・エフロン
製作 ノーラ・エフロン
   ローレン・シュラー・ドナー
脚本 ノーラ・エフロン
   デリア・エフロン
撮影 ジョン・リンドレー
音楽 ジョージ・フェントン
出演 トム・ハンクス
   メグ・ライアン
   グレッグ・キニア
   パーカー・ポージー
   ジーン・ステイプルトン
   スティーブ・ザーン
   ダブニー・コールマン